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2013年 3月 19日(火曜日) |
【アニメレビュー】アニメレビュー“たまごまご”のココがアニメを楽しむツボ! 本日は、心の声が聞こえてしまう少女を描いたTVアニメ『琴浦さん』の魅力を昨日に続き更に掘り下げてみました。
■人が成長する時に必要なもの
『琴浦さん』というアニメは、ヒロイン琴浦春香と、もう一人の主人公真鍋義久のダブル主人公になっています。ぱっと見琴浦さんの救済・成長物語なんですが、真鍋くんの成長物語でもあることは忘れてはいけない部分です。
さて、心理学的に人間が成長するには、3つの人間と出会う必要があるそうです。一人は「模範となる人物」、二人目は「守るべき存在」、三人目は「反面教師的存在」です。これを真鍋くんと琴浦さん両方から見てみます。
「模範的人物」は、御舟部長、室戸副部長、琴浦さんのおじいちゃん、和尚が分担しています。琴浦さん側としては、御舟部長の肯定してくれる姿勢、居場所を作ってくれる姿勢は非常に心強いはずです。学校にいって一人にならなくていい、とりあえずESP研にいけば安心できるというのはものすごく大きいです。そして、真鍋くんの存在は「これでいいんだ」と突っ切ることができる最大の「模範的人物」になっています。
「守るべき存在」は、琴浦さんであれば真鍋くん、真鍋くんであれば琴浦さんです。特に真鍋くんにとって琴浦さんが、すべてをなげうってでも守るべき存在であるのは非常に重大なこと。これが彼を、行動できる人間としての高みにさらに押し上げています。
そして「反面教師的存在」として、序盤は森谷さんが出されました。心は簡単に傷つける事ができる、という表現としての存在で、真鍋くん・琴浦さん両方にとって大きなターニングポイントになっています。しかし彼女はすぐに元の自分を取り戻し、琴浦さんにとって大切な「守るべき存在」に変わってきています。乗り越えなければいけない存在としては、琴浦さんのお母さんがいます。決して敵ではないのですが、価値観の異なる強大な存在として、琴浦さんの壁になっています。
反面教師的存在と守るべき存在はこの後他にも出てきますが、序盤はこのような構図で構成されています。
真鍋くん・琴浦さん共に最初は苦しむことになります。特に、森谷さんの策略で真鍋くんがケガをした時、自分がやった行動のためにまた人を傷つけてしまったと苦しむ琴浦さん。彼女は「どうすればいいかわからない」という悩みで逃げ出します。
しかし御舟部長の機転や、真鍋くんのまっすぐな努力で光明が差し、前に進めるようになってからの強さは尋常じゃなくなりました。「受け入れてくれる人がいる」ことが彼女を支え、成長させたのです。
真鍋くんはうなぎのぼりで成長し続けています。最初からかなりパワーのある存在で、第一話でその救世主っぷりを発揮していますが、彼だって完全ではありません、弱い部分、ヘタレな部分もあります。しかし琴浦さんがそこにいる、という事実だけで、彼はどんどん強くなれるし、頑張れるのです。
■鬱ブレイカー真鍋くん
ここで、真鍋くんというキャラがいかに愛されているかをちょっと書いておきたいと思います。一応はラブコメディですから、ヒロインの彼氏役となると、嫉妬されても仕方ない立ち位置なんですが、彼は一切そういうことがありません。男女共に愛される、非常に珍しい男性キャラクターです。
筋金入りのバカ、エロスの貴公子、特技は琴浦エロ妄想……あんまりいいことじゃなくマイナス気味ですが、「積極的なバカ」の表現がこのアニメ非常に巧みです。見ていて笑える。憎めない。むしろ「そうそう、そこは妄想するよな」と親近感が持てる。これが第一のポイントです。
次に、彼が登場すると猛烈な安心感を覚える、という点。このアニメは本来、非常に鬱要素が強い作品です。第一話は特に前半が、琴浦さんの心に傷を追い続けた、トラウマな過去について語られます。心が読めてしまうことで悪意をダイレクトに受ける琴浦さん、両親が離れてしまい、母親には「あんたなんか産むんじゃなかった」とまで言われ心を完全に閉ざしてしまう琴浦さん。見ていて辛いことの連続です。しかし真鍋くんが出てきて、その琴浦さんの思想世界を完全に打ち砕きます。世界に、画面に、色がともるんです。
それ以降、ほぼ毎回ラストで真鍋くんは、琴浦さんを救います。彼女の心の闇はとんでもなく深いし、それを理解するのは不可能です。真鍋くんは「バカでエロい」というのが逆に功を奏して、変化球を投げたりしません、ド直球で彼女に裏表なく近づき、接し、心配し、守ります。
これがどんなにあたたかく、幸せなことか! 毎回のように彼女の危機を救うその姿に、見ていて「真鍋くんがいれば、大丈夫」という安心感が生まれます。
ネットでは「毎話が最終回レベル」と言われることがあります。まさにそのとおり、毎話ごとにクライマックスがあり、かっちり物語が気持よく締めくくられ、やさしいEDにつながるため、カタルシスが半端じゃありません。それを運んでくるのは、紛れもなく真鍋くんなのです。
このカタルシスの感覚は、琴浦さんの感覚。自分は人を傷つけ、悪意をもろにうけ、身の回りで悲しい事件ばかり起きてしまう。でも、真鍋くんがいれば助けてくれる、という琴浦さんの絶対的信頼。これが視聴者にも伝わる仕組みになっているのです。
ただ、カタルシスは確かにありますが、真鍋くんの最大の魅力は琴浦さん救済だけではなく、「琴浦さんに対等に接してくれる」ところだ、というのは見る時におさえておくとよいかもしれません。
■みんな幸せになりますように。
ぼくが見ていて一番感情移入するのは、やはり真鍋くんです。もちろん琴浦さんに感情移入する人も多いと思いますが、やっぱり苦しんでいる境遇の子が、愛しい女の子がいたら、助けたいわけですよ。偽善でもなんでもなく、もっと本質的な感情として。当然アニメですから、ぼくには琴浦さんを救うことはできませんが、真鍋くんはぼくの想像をはるかに超えるくらいに、きっちり助けてくれます。だからこの作品は、本当に気持ちいい。
同時に、不思議な部分も感じます。琴浦さんの「心が読めてしまう」というのは、特異な能力です。使いこなせば非常に便利ですし、むしろ役に立つものです。しかし、彼女は完全にハンディキャップとして捉えています。なぜだろう? おそらくこの視点を持っているのが、御舟部長達でしょう。しかし御舟部長の母親も、自分の千里眼能力をウソ呼ばわりされることを苦にして、自殺しています。
超能力はハンディキャップなのだろうか? これについては視点がどこにあるかによります。そもそも「心が読めてしまう」経験がない。自力で読めるなら便利そうですが、読みたくもないのに読めてしまったら、心に激しい傷を負う可能性はあります。人間が、他人との適切な距離を置くことで傷を負わないように鎧を着ているとしたら、琴浦さんはむき出しの状態で晒されている、と感じているでしょう。だから、序盤では人を遠ざけていました。
森谷さん、おじいちゃん、和尚さん……色々な人が理解者であり、彼女の心配をします。しかし近づき方はやはり難しいもの。近づきたいのに刺があって近づけない関係を「ヤマアラシのジレンマ」と言いますが、琴浦さん的には丸裸で相手の刺が一方的に刺さる感覚なのでしょう。だからみんな、心配はしても、うまく踏み込めません。
そこに踏み込める真鍋くんは、まさにトゲのない人物、あるいはトゲを抜いた人物です。琴浦さんの一挙一動に、周囲の目も気にせず飛び上がり、叫び、喜ぶ。アニメで事細かに描かれる真鍋くんの行動は、おちゃらけからシリアスまで、実は傍目から見るとすっごく恥ずかしい行動ではあります。ありますが、そこに愚直の美学が眠っています。
実際には多分、あそこまで裏表なく、しかも積極的に、強く生きるのは無理です。多分ハリネズミみたいに距離を考えながら琴浦さんに近づくことになっちゃうのはわかってる。だから真鍋くんが眩しいのです。
もちろんバカ正直な真鍋くんのような人間との関係が最高、というわけではありません。語らずとも分かり合える御舟部長と室戸くんのような関係もあります。おずおずと近づいて次第に仲良くなっていける森谷さんのような存在もいます。自分にあったバランスというものがあるのを、この作品は雄弁に語ります。
琴浦さんには真鍋くんという存在が現れたことで、世界がひらけました。同じようにみんな幸せになればいいな、とふと願ってしまう、そんなアニメなのです。
森谷さん、道場にたくさん人入って幸せになれればいいね。モリ!
<明日は太田雅彦監督のインタビューをお届けします!>
 ≪文:たまごまご≫
WEBサイト「たまごまごごはん」の管理人でもあり、ライターとしても活躍中
●たまごまごごはん/
●たまごまご・オブ・ザ・デッド(Twitter)/
TVアニメ『琴浦さん』
≪スタッフ≫
●原作/えのきづ(マンガごっちゃ連載中、マイクロマガジン社刊)
●監督/太田雅彦
●キャラクターデザイン・総作画監督/大隈孝晴
●美術監督/高橋麻穂
●色彩設計/山本未有
●コンポジットディレクター/川井朝美
●CGディレクター/井口光隆
●編集/小野寺絵美
●音響監督/明田川仁
●音楽/三澤康広
●アニメーション制作/AIC Classic
【関連リンク】
●TVアニメ『琴浦さん』/
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