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2009年 12月 03日(木曜日) |
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激動編 第1話「美闘士狩り」
クイーンズブレイドリベリオン 公式ストーリー配信がいよいよ再開!
アンネロッテたち叛乱軍に立ちふさがるのは、手強い相手、異端審問官シギィ! そしてついに姿を現した第三の勢力、沼地の魔女。いよいよ激しさを増すリベリオンの美闘士たちの戦いにご期待ください。
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うっそうと茂った森の中、屋根のように天を覆った木々の切れ目から、青白い月光が焚き火を咎めるように照らしている。
焚き火を囲んでいるのは三人の娘――甲冑に身を包んだ銀髪の娘は、今は亡きクロイツ辺境伯の一人娘でもある女騎士、“叛乱の騎士姫”アンネロッテ、偉大なる錬金術師シアンの娘にして天才的な頭脳を持つリトルエルフの少女、“錬金軍師”ユイット、そしてユイットの身を守るクロックワーク・オートマトン、“錬金鋼人”ヴァンテの三人だった。
「早く屋根のあるところで寝たい~」
ぽきりと折った枯れ枝を焚き火に放り込みながらぼやくのはユイット。済ました顔で、アンネロッテが応える。
「明日には旧伯爵領に入る。そこから目的の大牙山まではすぐだから、それまでの辛抱だ」
「判ってる、判ってるけど……お兄ちゃんだって、野宿は大変でしょ?」
「そうも言っていられない状況だから、気にしたことはない」
「もう……それはそうだけど」
「それよりも……“荒野の義賊”リスティ……力を貸して貰えるものだろうか」
焚き火を見たままぽつりと呟いたアンネロッテに、今度はユイットの方が励ますように言う。
「大丈夫だよ、きっと」
ここに至るまでの道のりは、けして平坦ではなかった。
1年前、大陸の支配者たる女王の座を賭けて争われる闘技会、クイーンズブレイドは、“流浪の戦士”レイナの手によって“逢魔の女王”アルドラが倒されることで幕引きとなった。
8年間に渡ったアルドラの治世が終わり、レイナが新たな女王となる……と思われたが、彼女は女王の座に就くことなく、いずこかへと姿を消してしまったのだった。
その代わりに新たな女王の座に就いたのが、闘技会でレイナに敗れた実姉“雷雲の将”クローデット。
クローデットは自らが玉座に着くと、クイーンズブレイドの廃止を宣言し、重税と厳しい罰則で民を圧するようになった。
逆らう者の元には王下直属の精鋭軍が送り込まれ、武力によってその口を強引につぐまされることとなる。
アンネロッテの父が治めていた、クロイツ辺境伯領も、そうやって戦火に巻き込まれ、今はもう存在しない。
家族も、住み慣れた土地も、すべてを失ったアンネロッテがガイノス城へと乗り込み、女王クローデットを討とうとしたのは、果たして敵討ちか、義憤か、それとも自暴自棄だったのか。
襲撃が失敗に終わり、王城の奥深くに囚われていたところを謎の女剣士に救い出され、一人の力で成せることの限界を知ったアンネロッテは、仲間を集める旅に出た。
かつてクイーンズブレイドを闘った者たちの中から、信頼できる美闘士の協力を募ろう、という話になったのである。
とは言え、それは簡単なことではなかった。女王への反乱を志すのだから、仲間にするにはそれに足るだけの信頼がなければならない。現女王の配下であることが判っているエリナやユーミル、永きにわたり大陸支配を目論んでいると伝えられる存在、沼地の魔女の配下であると言われるメローナやアイリ、メナスらを除けば、声を掛けられる人数は極端に少なかった。
加えて、参加者たちのクイーンズブレイド後の去就にまで、報告の義務があるわけではない。多くの美闘士たちが都を去り、そのまま行方知れずになっているのだった。
「優勝者の“流浪の戦士”レイナを始め、ほとんどの参加者は大会の後すぐに旅立ってしまって、行方が判らないわ」
ため息をつきながらユイットが言う。
「それに……“武者巫女”トモエのように、居場所は判っているけれど、簡単に会いには行けない……なんて人もいるし」
「ヒノモトか……遠いな。だが、必要であれば……行かざるを得ないだろう」
海の向こうの異国を思いながら、アンネロッテが自らに言い聞かせるように呟く。
「前女王のアルドラも声を掛ける相手の候補だったんだけど……これも、居場所の手がかりが無いの」
「元女王なのに、か?」
「一度負けたらただの人、ってことかしらね……」
「ガォン……」
寂しそうに肩をすくめたユイットを慰めるように、ヴァンテが低い声で唸りを上げる。
「うわさでは、悪鬼(デーモン)に取り憑かれていたアルドラ女王はクイーンズブレイドに負けて悪鬼が離れ、今ではどこかで一市民として暮らしているって」
「悪鬼……」
その言葉が、アンネロッテの胸にちくりと突き刺さる。
自らの裡に眠る魔人の血。
それは、彼女自身の意志とは関係なく、その危機に際して牙を剥き、守るべき存在すら粉砕しようとする恐るべき力だった。
女王の腹心、“鋼鉄参謀”ユーミルが作り上げた最強の戦士、“超振動戦乙女”ミリム。
彼女との戦いのさなか、重傷を負わされたアンネロッテの身体の奥で、呪われた魔人の血が覚醒した。
ミリムを一撃で退け、“牙を統べる者”エリナをも倒し、ユーミルを撤退させ……そして、仲間であるはずのユイットすら手に掛けようとした、あの時の自分。それをアンネロッテは、夢の中の光景のようにぼんやりと覚えている。
「わたしは……父上と母上の、子ではなかったのだろうか」
悪魔と人間とが交わり、悪魔の力を身に宿した人間、魔人が産まれるという。
不意に呟いたアンネロッテに、ユイットが訝しげな表情を浮かべながらも首を振る。
「ううん、魔人の血は何代も後に発現することもあるから……むしろ、お兄ちゃんのお父さん、クロイツ辺境伯も魔人の血を引いていた、と考えた方が合理的だよ」
「父上が……魔人」
その答を噛み締めてから、アンネロッテが小さく笑う。
「もしもそうであったとしても……見知らぬ誰かの子だったというよりはずっといいな……父上は、確かに強く、優しかったから」
それは、嘘偽りのない本心だった。尊敬する父親が血の繋がらない他人だったと思うよりも、代々魔人の血を引いているのだと言われた方が、自らに流れる魔人の血が忌むべきものではない、むしろ誇らしいものであるように思えるのだった。
だが、次いでもう一つの疑問が沸き上がってくる。
「ならば……姉上は」
「姉上? お兄ちゃんの、お姉ちゃん?」
「そうだ、幼い頃には、自分に姉がいた気がする。父上に聞いても、母上に聞いてもそんなものはいないと言われ……聞いてはいけないような気がして、やがて口を閉ざし、忘れるようになったが……それでも、たまに思い出すことがある。勘違いや、思い込みではない。わたしには、姉がいる」
「う~ん……もしそうなら、魔人なんてそんなに数がいるわけじゃないんだから、きっと巡り会うこともできると思うな」
「そうだな……ありがとう」
ユイットの優しさに、思わず微笑みがこぼれた。
「さあ、もう寝よう。明日には大牙山……叛乱組織を作って女王に対抗している、リスティに会うのだから」
「ん、そうだね……ヴァンテ、あとはよろしくね」
「ガオォン!」
不寝番を任されたヴァンテが頷くのを見てから、アンネロッテとユイットは寄り添いながら眠りに就いた。
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時を少しだけ遡る。
アンネロッテたちが辿り着くほんの数日前の、旧伯爵領の南方に位置するごつごつとした岩山、大牙山。
ユイットが掴んだ情報の通り、ここには“荒野の義賊”リスティが作り上げた叛乱組織が存在していた。
存在していた……この日までは。
「くそっ、何なんだよ、こいつらはっ!」
得体の知れない敵たちに囲まれて、リスティは叫んだ。
クイーンズブレイドが終了し、新女王クローデットによる圧政が始まってすぐに、リスティは動いた。
剣を交えて命を交わせば、言葉よりも多くのことが判る。リスティが知るクローデットは、圧政を敷く暴君になるような女ではない。頭の固いところはあるが、正道を進む人格者であり、名将だったはずだ。
だからこその、叛乱活動である。
これによってクローデットが己の過ちに気付けば良し。そうはならなかったとしても、その悪政を打倒することができる。自分たちが起てば、各地で蜂起には至らずとも現体制に疑問を感じているような者たちが勇気づけられ、あるいは自分たちに助力してくれるだろう。そう考えての結果だったのだ。
だが、それも今日、この時までの夢。
アジトに突如、“敵”が現れたのだ。
深夜、奴らは忽然と現れた。
影の中から湧き出るようにして、忽然と姿を現したのは、メイドの装束を身にまとい、大鎌を持った二人少女に率いられたこの世ならざる者たちだった。青白く血の気の失せた肌、生の輝きを感じさせぬ瞳。死霊たちは無表情に、アジトのメンバーたちに襲いかかる。
「お前たち、逃げろっ! 死ななければいくらでも立て直しが効く! ここはあたしに任せて、逃げるんだっ!」
突然の奇襲に阿鼻叫喚のアジト。その中で一人でも多くの仲間を逃がすべく孤軍奮闘していたリスティの前に、巨大な影が立ちはだかった。
「邪魔するなああっ……うあっ!?」
メイスを振り上げ、巨大な敵に挑み掛かったリスティは、次の瞬間に自分が地に伏していることにすぐには気づけなかった。
「な……なんだ、こいつ……ぐ、ううっ……」
一撃。
ただの一撃で、武器を弾かれ、鎧を砕かれ、立ち上がる力を奪われてしまったのだ。
残る気力を振り絞り、顔を上げ、苦痛を奥歯に噛み殺しながらリスティが呻く。
「て……てめぇ……な、なにもん……だっ……!」
返答は、影をまとった敵ではなく、倒れ伏したリスティたちを取り囲むように立ったメイド姿の死霊たちによってもたらされた。
「このお方こそ」
「このお方こそ」
「我らがあるじ」
「我らがあるじ」
「沼地の魔女様」
「沼地の魔女様」
メイドたちが声を揃えて唱和して、そんなことも知らないのかとばかりに、ころころと鈴のような声でリスティを嘲笑う。
「沼地の……魔女、だと……っく、う、うっ……」
全身を覆う激痛を必死でこらえながら、リスティは敵を睨み付ける。
「知っている……ぜっ……! 人と人とを争わせ、傷つけ、支配しようとする魔女……! そいつが、今までずっと辛気くさい沼地に引きこもってたような奴が……今頃、何を、しに来やがった……!」
「沼地の魔女様は、今までお眠りになっておられたのです」
「眠って……いた、だと……?」
「そうです。そのお力を蓄え、さらに強大なものへと練り上げるために」
地べたから見上げたリスティの目を、沼地の魔女が覗き込むように見下ろす。
その、底なし沼のような瞳に捕らえられ、リスティの全身にぞくりと寒気が走った。
「ですが、眠りの時は終わりを告げました。沼地の魔女様は新たなる肉体を得られ、自ら美闘士狩りをお始めになられたのです」
「美闘士狩り……だとっ……?」
リスティの呻き声に応えるように、メイドたちが一人一人、聞き覚えのある名を並べてゆく。
「“流浪の戦士”レイナ」
「“武者巫女”トモエ」
「“戦闘教官”アレイン」
「すべて、すべて狩られました」
「沼地の魔女様の手によって」
「なん……だと」
一瞬、メイドたちの言葉に呆然とするリスティ。だがすぐに気力をふるい、彼女は叫び返す。
「ふざけるな……ふざけんじゃねえ! レイナがお前らなんぞに、殺されるわけがねえっ!」
「ええ、そうです。沼地の魔女様は、彼女たちを殺してなど、いません。それに……“荒野の義賊”リスティ。あなたも、殺されはしません」
「な、なんだ、そりゃあ……一体、どういう意味……」
「死よりも苦しい生を、沼地の魔女様が、与えてくださるそうです。それが、あなたの運命です」
つい、とメイドたちがリスティを囲む輪が狭まる。身の危険を感じて、リスティは立ち上がり、その場を逃れようとした。だが、身体に力が入らない。魔女に打ち倒されてから、かなりの時間が経ったはずだというのに、身体全体が痺れたように脱力していた。
「う、っく……な、なんだ、これはっ……」
いつの間にか、床から邪悪な瘴気の塊がいくつも触手のように伸び、リスティの身体を捕らえていた。
その触手がリスティの自由を奪い、体力を吸い取っているのだ。
「ち、力……がっ……お前ら、な、なにを……!」
「さあ、全てを沼地の魔女様に委ねるのです。その身も、その心も」
メイドの人垣が割れ、沼地の魔女がリスティに手を伸ばす。
「や、やめろおっ……はうっ……!」
リスティ痺れた身体に、氷のように冷たい指先が触れた。ぞくぞくと全身に悪寒が走り、だが、逃げることもできずにリスティは叫ぶ。
「さ、触る……なっ……! ひ、うぐうっ……!」
冷たい指が、リスティの鍛え上げられた筋肉を確かめるように、背筋、肩、首筋と撫で上げてゆく。
「抗わずに、全てを沼地の魔女様に捧げなさい……“荒野の義賊”リスティ」
魔女の指先から逃れようと身をよじるリスティを嘲笑うように、メイドたちが言う。
「逃げることなど、不可能……今日からあなたは呪われし虜囚となるのです」
「ふ……ざ、け、る……な……」
歯を食いしばり、リスティはかろうじてそれだけを口にした。
意識が失われる直前、リスティが見たものは、それまで無表情だった沼地の魔女が、邪悪に、淫蕩に、にいっと嗤うその口元だった……。
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アジト襲撃の、ほんの数日後、アンネロッテたち一行が辿り着いたそこには、何も無かった。
死体一つ残されていないアジトには、ただ、ここでなにかがあったのだと直感させる邪悪な気配が充ち満ちているのみ。
「これは……一体……?」
「判らない……判らないけど、なにかがここで……あったみたい」
目に見えない気配に怯えながら、ユイットがアンネロッテに応える。
「だけど……これだけはハッキリ言えるわ。お兄ちゃん……リスティとは、会えないみたい」
「そうだな……仕方ない、行こう。縁があれば、運命がきっと我らを引き合わせてくれるだろう」
希望に満ちた言葉で不安を押し隠して、アンネロッテはユイットを慰める。
彼女たちの反乱の物語は、新たな局面を迎えようとしていた……これはその序章だったということにアンネロッテたちが気がつくのは、ずいぶん後のことだった。
- つづく -
ストーリーテキスト:松智洋、イラスト:えぃわ
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©HobbyJAPAN
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