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2012年 4月 13日(金曜日) |
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第九話:『沼地』
「そーれっ! 起き上がれ~」
ルナルナの合図を受けて外壁にめり込んだブライが振動と共に轟音を立て、ゆっくりと起き上がる。
これで一足先に沼地に向かったアンネロッテたちを追いかけることができる。
「そういえば、あの天使はどこに行ったのかなぁ?」
ブライを機能不全状態に追い込んだ天使の姿をあれからユイットは見ていない。
「ユイット、大変ネ!」
ドカンと女王の間のドアを蹴破って、ターニャンが飛び込んでくる。リリアナの襲撃を受け半壊した女王の間に残されていた数少ないドアが埃を立てて崩れ落ちた。
(修理代が大変だよぉ……)
ドカドカとユイットに近づいてくるターニャンの後ろに、申し訳なさそうな表情をうかべたサイニャンが付いてくる。
「龍の子が神託を告げたアル! アンネロッテ姉者たちが危機になるネ!」
「な、なんですって! ど、どんな内容なのよ」
「詳しいことは、サイニャン!」
(ええっ! こっちに振るわけ?)
「良いから、ユイットに説明するネ」
ターニャンにじろりと睨まれ、サイニャンはおずおずと自分たちが聞いた言葉をあらためてユイットに告げた。
「姉妹の前に竜が立ちはだかる……って言ってたんだけど」
シャイファンにとって神とも呼べる龍の子の神託とあらば、無碍に無視するわけにもいかない。沼地の魔女と相対する前に竜とも一戦交えなければならないともなると、アンネロッテたちだけでは厳しいものがある。
「私たちも急いだほうがいいわね」
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「見えました……、よ?」
はるかな彼方、雲海の向こうを悠然と飛行する海賊船の姿を視認し、ライラはにっこりと微笑みを浮かべ聖砲を構えた。
魔女の手下である海賊船を仕留めておかなくては、ナナエル様に会わせる顔がない。
「最大出力で……撃ってみよう……」
海賊船に向け圧力を最大にまで高めた聖乳を放ちながら、ライラは次なる攻撃のために海賊船へと高速で飛翔していった。
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それは突然の出来事であった。
白く輝く液体が海賊船の船体に付着するのと同時に、付着した部位が瞬く間に崩壊を始めたのだ。
「何事でございますのっ!」
異変を察知し船室から飛び出してきたキャプテン・リリアナの顔に船体を崩壊させた聖乳が飛び散る。
「ひっ……、こ、これは……」
リリアナは慌てて聖乳を拭い甲板へと目を向けた。すでに船体の二割近くが消滅し、海賊船は急降下を始めている。
「敵は? 迎撃をしなさいっ!」
リリアナの声を受け、幽霊船員が空の一点を指さす。
「あれは……天使?」
「こらーっ! ライラ、攻撃をやめるのじゃ~ッ!」
宝石姫エイリンが叫んではいるが、その声は天使にまで届いていないようだ。
「ぎりぎりまで降下しなさいっ! 海賊の美学、その四十二『判断は悩まず冷酷に下せ』 客人を落として船体を軽くするのですッ!」
「ぬあっ? お主、ワシらを落とすのかッ!」
「おばあ様たちは落とすとしても最後ですわ」
リリアナの言葉にユーミルが一筋の光を見出したまさにその時、不意に足元の甲板が消滅し、彼女は幽霊船の外へと放り出された。
「ユーミル姉っ!」
ユーミルへと手を伸ばしたエイリンもまた足場を失い、空中へと投げ出される。
「さすがはお元気なお年寄りの皆さま。ご自分から飛び降りられるとは、敬服いたしましたわ」
「いえ、どうみても違いましたけど。ところで、なんとかなりませんの?」
ライラから一方的な攻撃を受け崩壊しながら幽霊船は降下していく。
「ああ、まだいらっしゃったのですか?」
リリアナはうんざりしたような視線をシギィへと向けると、幽霊船員に命じて気絶したままになっていたイズミを彼女に向けて放り投げさせた。
「何を……」
流石に見捨てるわけにはいかず、シギィは甲板の上でバランスを崩しながらもイズミを受けとめる。
「仲間思いは良いことでございますわね。海賊の美学、その三『不要な宝はすぐに捨てろ』……返して差し上げますわ」
リリアナは微笑みを浮かべ、よろけるシギィを突き飛ばす。
「お、おぼえてらっしゃいッ!」
捨て台詞を残して、イズミと共にシギィは沼地へと落ちていった。
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「まあ、この高さなら大丈夫でしょう」
「シギィ! イズミ!」
二人を追って、沼地へと飛ぼうとするアンネロッテをアルドラが押さえ込む。
「待って、アンネロッテ! おちついて下を見なさい」
「下を?」
アンネロッテは見た。眼下に広がっているのはシギィたちが落ちたような沼地ではない……禍々しい瘴気に満ちた泥濘が広がる不毛の底なし沼だ。
「ここに落ちたら、いかに私たちでも……」
アルドラの言葉にアンネロッテが耳を傾け息を呑んだ瞬間、維持限界を迎えた幽霊船が凄まじい崩壊音を立てて瘴気の渦の中で砕け散り始めた。
「覚悟を決めるしかないようだ。アルドラ姉さん」
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「急ぐんだよ、ヴァンテ」
ユイットの命令を受け、ブライと再び一体化したヴァンテが巨体を動かす。目指すは沼地の魔女の城だ。
「ちょ、ちょっと飛ばしすぎじゃありませんか?」
柱にしがみつきながらミリムが青ざめた表情でつぶやく。
今までにない速度で疾走するブライの揺れ具合たるや、さながら大嵐に翻弄される小舟と同じ、陸育ちの美闘士たちが船酔い同然の有様になるのも無理はない。
「とにかく急いで合流しないと!」
ユイットがガイノスを後にして急行しているのには、龍の子の信託以外の理由がある。それはしばらく戦場を離れていた不屈の闘士リスティからもたらされた沼地の魔女に関する情報のせいだ。
「もし、リスティが話してくれたことが真実なら、お兄ちゃんたちだけじゃ、魔女に勝てない……」
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「ああ、えらい目にあったわい」
「そうじゃのう、いくらワチらが頑丈とはいえ、生きた心地はせんかったのう……」
怪しげな濃霧に包まれた街道を二人の姫はぶつくさと文句を言いながら歩いていく。
落下地点が温泉地帯だったことが幸し、二人とも傷ひとつないどころか、かえって生き生きとしている。
「ユーミル姐、何か見えてきたぞい?」
濃霧の中からうっすら巨大な建造物が姿を現す。
「ここまで来たら行くしかあるまいのう。なあに先にアンネロッテたちがたどり着いておるかもしれんて」
「これは……城ではないのう……館でもないようじゃ」
円形に作られた巨大な防壁に包まれた中庭、この造りは闘技場に近い。
「うしゃしゃしゃしゃ……お客しゃんのお出ましのようだなぁ! ここは、沼地の魔女さまの闘技場! ここに来た美闘士はこの俺様、調教師ドグラのモノになる運命よォ!」
ドグラと名乗った沼ゴブリンのオスの叫び声に合せるかのように闘技場に漂っていた霧が消え失せ、壁面に設けられた牢獄が姿を現す。
「こ、この者たちは……」
肌も露な奴隷服を着せられた女性たちや、鎖でつながれ自由を奪われた戦士達の姿にエイリンが言葉を詰まらせる。
「無謀にも沼地の魔女様の命を狙ってやってきた美闘士たちの成れの果てよォ!」
がぐいと紐を引き、一人の美闘士を闘技場へと引きずり出す。ヒビだらけの剣と盾を手にしただけの、ほぼ全裸と言ってもいい魅せるための衣装を身にまとった美闘士だ。
「ブランウェン! 今回は五分だ。五分でケリをつけろ」
ドグラがニヤニヤと笑いながら美闘士の首輪に結び付けられた紐を強く握る。
「好きにするがいい……さあ、私の対戦相手はどちらだ?」
ブランウェンと呼ばれた美闘士は、顔を顰めたままユーミルとエイリンを交互に見る。
「ブ、ブランウェン……じゃと?」
相手の名を聞いたエイリンが一歩ほど退く。
「知っておるのか? エイリン」
「伝説にうたわれる竜族の調停者、聖竜の戦士として名高い戦士じゃ……クイーンズブレイドのような世俗の戦いには関与してこなかったはずじゃが……」
「このようなところで、あのような様になっていようとは……哀れよのう」
「私を侮辱するのもそこまでにしてもらおう」
眉を上げながらブランウェンは怒りのこもった声で告げると剣を構えた。
「君たちに恨みはないが、始めようか……戦いを」
はたして、ユーミルとエイリンはブランウェンに打ち勝ち、無事にこの闘技場を脱することができるのだろうか。
それは戦ってみなければわからない……。
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沼地の魔女が支配する領域で離散することとなった美闘士たち。
彼女たちは、魔女の元へとたどり着くことができるのか?
次回、『魔女』 万を持して登場!
ストーリーテキスト:沖田栄次、イラスト:織田non
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