スライム責めが中断した後も、責めはアンネロッテが何度も気絶するまで続いた。
エリナは、責め疲れた手を休ませながらアンネロッテにささやいた。
「別に何も言わずに死んでもいいのよ? でも、どうせなら命乞いして死んで欲しいな。なるべくみっともなく。そうしたらクローデットお姉様に楽しく報告できるもの」
「わ……たしは……私は、ま……だ、死ぬ……わけにはいかない!」
アンネロッテが歯を食いしばる。
「でも、そろそろ飽きてきたしねぇ。もっかいスライムで、今度は脳みそ溶かしちゃおっかな?」
エリナは、退屈してきたというようにアンネロッテを呪言で嬲っていく。
「わ、私は……姉さんのためにも……死ねないっ!」
その時だった。
アンネロッテを包む空気が変わった。
気、とでもいうのか。
地下牢の闇を吸い込むように、アンネロッテの目が闇色に染まる。
アンネロッテの身体を縛っていた縄が、悲鳴のような音を立ててちぎれていく。
「ヤバイ!」
エリナも、歴戦の美闘士である。
そのふくれあがる気配に敏感に反応した。
「とりあえず、眠っとけ!」
エリナは、渾身の力を込めて地下牢の天井に跳んだ。
天井に足を着き、弾丸のような速度で吊されたアンネロッテに鉄爪を打ち込む。
エリナ必殺のジャンプアタックだ。
「かはっ!!」
アンネロッテは悶絶し、気絶した。
しかし、そのぐったりと吊された姿を見てもエリナは冷や汗がとまらなかった。
「今の……なんだったの?」
エリナは、気味悪げにアンネロッテを見た。
「これは……徹底的に取り調べる必要がありそうね」
彼女はそう呟いたが、ふと何かを思い出した顔になる。
「まあ、明日でいいわ。このままでも死なないでしょ」
気絶したアンネロッテを放置して地下牢を歩き去る。
もうすぐお茶の時間なのを忘れていた。
エリナにとっては、その程度のことだったのだ。
そして、更に数刻が過ぎた。
「はぁ……はぁ……」
縛られたまま放置されたアンネロッテは、もはや虫の息だった。
このままでは明朝まで持たないかも知れない。
まだ死ねない……あの暴君を倒すまでは……
そう思ったときだった。
深夜の地下牢に、静かな声が響いた。
「……生きてる?」
その声は、確かにアンネロッテに向けられていた。
「……誰だ?」
「あら、意外。元気そうね」
ほっとしたように言った影は、見慣れぬ異国風の衣装を着ていた。
「助けに来たのよ」
そういうと、アンネロッテの縄を解こうと手を伸ばす。
「見たわ。あなたが一人でクローデットに立ち向かった所を」
「……しかし、このざまだ」
「そうね。馬鹿だと思うわ」
そういいながら、影はまったく笑っていなかった。
「私と、来て欲しいの。あなたみたいな人を待っていたから」
ぶつん、と音がしてアンネロッテの縄が切れる。
丸一日以上全身を拘束され、拷問を加えられていたとは思えぬ気丈さで、
アンネロッテは、助けてくれた影に一礼した。
「いいだろう。一度、死んだ命だ」
「よかった。急ぎましょう。見張りが気づく前に」
そういうとアンネロッテと見知らぬ影と共に歩き出す。
アンネロッテの、長い闘いの始まりであった。
// 第2話「牙を統べる者」END
ストーリーテキスト:松智洋、イラスト:蔓木鋼音